陽射しが眩しくて、翳した右手の下から眇めた目の先に白いシャツの背中。
ハタハタと揺らめく裾。
貸したジーンズではウエストが合わなかった緩いそこには仕舞われずにいた白いシャツの裾が、屋上の強い風にはためいている。
きらきらと陽光に反射する白いひかり。



君はいつだって遠かった。
君はいつだって近くにいるのにまるで影のように、遠かった。






雨雲の終わりに、太陽の影を








突然の雨。
近くの建物までと急いだ雨宿りにも間に合わなかった体は髪も服も、靴の中までびしょぬれだ。
「・・・・っ」
自分の隣で小さく悪態を吐く彼を見下ろし、小さく笑った。彼に見えないように、気づかれないように小さく。
出かける際に、傘をいらないと断ったのは彼だった。
先に玄関を出ようとした彼の背中を追いながらスニーカーを履いていた耳に、リビングから微かに聞こえてきた天気予報は50%の降水確率。
心配性の妹の日頃の忠告のためか、自分は半分の確立なら傘を持っていく習慣がついてしまっていた。
一応、目の前の彼にも持たせようかと聞いてみると彼は、思案することもなく要らないと言ったのだった。
ならば、と自分も手に持っていた傘を下駄箱の上に置いた。
玄関を開けた先にはうっすらと雲の浮かんだ空が広がっていた。
その今朝の光景を思い出した。
まだ、じっと振り続ける雨を見ながら、----それはまるで睨みつけるような視線だ---、腕組みをしている。
あの行動を今悔やんでいるのだろう。自分が濡れたたためではない。自分の言葉で、俺も共に濡れることになってしまった事実に、自分に、苛立っているのだろう。
(なんて、律儀なやつ。)
俺は濡れたって平気だ。熱すぎる気温にむしろ突然のこの通り雨は気持ちが良かったくらい。
けれど、言っても慰めにはならないから口にはしないでいる。
彼の気が落ち着くまでもうすこし、曇った空でも眺めていることにしよう。
きっともうすぐ、あの雲の切れ間から太陽が覗くはずだから。
もう少し、この狭い軒下にいよう。
こうして互いに濡れた腕がくっつくくらいの距離で、君のそばに。
雨が上がったら、ゆっくりと水溜りの出来た道を歩くのもいい。
小さな子供みたいに、わざと水溜りに足を踏み入れても、もう濡れた靴だ。大した変わりはないだろう。
家に着いたなら、少し熱めにしたシャワーでも浴びて、二人分の服を洗濯機に放り込んだなら、最近覚えた遣り方でコーヒーを淹れてみよう。
乾くまでは俺の少し前の服を段ボールから引っ張り出して、彼に貸して、やっぱり少し大きめの服に顔を顰めるだろう彼を笑ってやろうか。
早く大きくなれよなんて笑いながら、まだ濡れたままの柔らかい銀糸を掻き混ぜてやろう。
そう思えば、雨上がりが待ち遠しくなった。
雨が上がったのはそれから7分後。
雲の切れ間から、じりじりと肌を焦がすような太陽が顔を出した頃には二人して濡れた服も気にならなくなっていた。
折角、予定を決めて出掛けたけれど、この格好ではさすがに店に入れないだろうなと苦笑する彼に頷いて、二人で来た道を戻った。


マンションの屋上に繋がる扉を開けた。
キィとドアの重みで軋んだ蝶番。
陽射しが眩しくて、翳した右手の下から眇めた目の先に白いシャツの背中。
ハタハタと揺らめく裾。
自分が貸したジーンズではウエストが合わなかった緩いそこには仕舞われずにいた白いシャツの裾が、屋上の強い風にはためいている。
きらきらと陽光に反射する白いひかり。
ドアノブを回したままで止まっていた手を離す。
見惚れていた自分を振り切る切欠を作るようにわざと大きく息を吸い込む。

「冬獅郎ー、服乾いたぞ」

振り返る彼もまた、眩しそうにこちらに向けた目を細めている。

ああ、今確かに二人、同じ太陽の下にいるのだと何故だか安堵した。

君はいつだって遠かった。
君はいつだって近いのに果ての影のように、遠かった。
それも昨日で終わり。
今日からは一緒だ。

まだ揃わない食器。まだ揃わない家具も、君の服も。
また今度、買いに行こう。
雨上がりの夕暮れは、きっとアスファルトから太陽の残り香が立ち上り、大きく開いた部屋の窓から分かるだろう。
そこにはさっき淹れたばかりのコーヒーカップが湯気を立てて、テーブルの上に二つ並んでいる。
今日唯一、自分たちが出かけて手にした成果がそれだ。
だけど、それよりももっと大事なものを手にしている。
それは、これからもずっと手に出来るもので、俺は今日それを知った。

「コーヒー、淹れたんだ。飲むだろ?」

「ああ、この前覚えたと言っていたやつだな」


そう頷く彼の姿を見て、この上なく幸せだと--------。



fin

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日記からサルベージ第二弾。
何故だか一護と冬獅郎が同居する設定。
一護は20歳ぐらいで、冬獅郎は許可を得て尸魂界から現世にやってくる、そんな21世紀最後の夢みたいな捏造の嵐。
まだ引っ越してきたばかりだから一緒に色々揃えに買い物に行こうとして早速失敗。
でもそれも楽しもうぜ!みたいなポジティブ一護。