nameless





いつだっただろうか、この思いが自分ひとりのものではないと知ったのは。
いつだっただろうか、彼が医師としてだけでない感情で自分の病と向き合って くれたのは。
家族のためだけでなく、自分の、そして、彼のために生きたいと思ったのは。 いつだったか。



「冬獅郎、キスしようか・・・」
抱きしめてくれる腕が嬉しくて、笑った。
響く声が頭上から降ってくる。
「さっきまで発作起こしてた人間が無理すんじゃねぇよ」
漸く治まったばかりなのに、この腕に閉じ込めた人間は何をいうのかと
冬獅郎は心底分からないと顔を顰めた。
医師である冬獅郎は、恵まれたことにこれといって大きな病気にかかった事が なかった。それゆえに、病人の気持ちを推し量ることに長けていなかった。 ましてや、目の前の、病を抱えた少年の心の内など到底計りかねる。
さっきまで、苦しそうに普段の顰められた眉など比ではないくらいの苦痛を 宿す顔で耐えていたくせに。
確かに言われた言葉は嬉しくないといえば、嘘になるが気分は複雑だ。
「一護・・・」
ただの患者から、ひとりの人間へ対しての感情を抱くようになって名を呼ぶようになった。 その度に、少し照れたように、でも嬉しそうなのを隠しながら自分を呼ぶ一護の声が 気に入っていた。
「大丈夫。お前とキスしたくらいじゃ死なねぇよ」
冬獅郎の胸に寄りかかるように埋めていた顔を上げた。
そして、彼の右手を掴むと自分の左胸に当てた。
「ほら、まだちゃんと動いてるだろ?」
「ああ・・・」
とくとくと確かに自分の手のひらを叩く脈拍。
知らず詰めていた息を冬獅郎は吐き出した。

思っていた以上に自分は、この人間の死を恐れているのだ。
そして、病を抱えなお、笑ってみせる彼を愛しているのだ。




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お題07 「 希望に触れて 」

BJ旦三弾。いつの間にかくっついてる二人。